「数値目標」という呪文ー道標なき目標設定と経営層の責任、そして寄生虫

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 昨今の企業経営において、最も深刻な問題の一つが
数値目標の形骸化」と作者は考えています。

例えば「前年度比20%アップ」といった野心的(?)な
目標設定は、実態を伴わない空虚な掛け声になっている
ことが少なくありません。

この状況が示唆する組織の病理について、以下の3つの
観点から考察してみましょう。

  • 具体性を欠いた目標設定と実行計画の不在
  • 責任転嫁する経営層の存在
  • 既得権益に固執する寄生虫の存在

 まず、多くの企業で見られる致命的な問題は、
目標達成のための具体的なロードマップが存在しない
ことです。

「20%アップ」という数字は、それ自体が目的化して
しまい、そのために必要な組織改革や業務プロセスの
見直し、人材育成といった本質的な取り組みが置き去り
にされています。

 さらに深刻なのは、目標未達の際の経営層の態度です。
彼らは往々にして「現場の努力不足」という安易な
結論に逃げ込みます。

しかし、本来経営者に求められるのは、目標達成に
必要なリソースの確保や、実行可能な戦略の立案、
そして組織全体のケイパビリティ向上のための
施策実施です。

これらを怠りながら部下の責任を問うのは、
明らかな責任放棄と言えるでしょう。

 加えてもう一点、看過できない問題が存在します。
それは数値目標の実現可能性に対する検証がほぼ皆無
だという点です。

経営とは本来、限られたリソースの中で最大の成果を
追求する営みのはずです。だとすれば、掲げる目標には
必ず「実現可能性の検証」が伴わなければなりません。

例えば、

  • 現在の人員体制で達成できる生産性の限界値は?
  • 市場の成長率や競合状況から見た売上増加の
    現実的な上限は?
  • 必要な投資額と、それに見合うリターンの試算は?

これらの基本的な検証を自ら行わずに目標を設定する
ことは、経営者としての責務の放棄に他なりません。

より深刻なのは、この「実現可能性を無視した目標設定
が、組織に致命的な悪影響をもたらすことです。

達成不可能と知りながら目標を押し付けられる現場は、
次第に目標そのものを軽視するようになります。

そして最終的には、組織全体で「どうせ無理な数字」
という諦観が蔓延することになるのです。

 これは組織の健全性を著しく損ないます。なぜなら、
本来なら達成可能な現実的な目標までもが、「どうせ」
という言葉の前に色褪せてしまうからです。

経営者は肝に銘じるべきです。実現可能性を伴わない
目標設定は、単なる無能の表れではありません。

それは組織の意欲と可能性を確実に殺していく、
静かな毒なのです。

 また、このような組織の歪みに便乗して利益を
得ようとする層の存在も無視できません。

主に顧客対応部門などに多く見られるこれらの存在は、
自身の業務改革や能力向上を避けながら、他者の成果を
自らの実績として取り込もうとします

彼らの本質は、組織の非効率性や不透明性を利用した
「組織の寄生虫」とも言えるでしょう。

 このような状況下で、真摯に業務に取り組む社員は
どのように行動すべきでしょうか。

答えは意外にもシンプルかもしれません。

それは、自己の実力向上と実績の積み上げに徹する
ことです。ただし、それと同時に自身の成果が組織内の
寄生的存在に搾取されないための防衛策も必要です。

具体的には以下のような対策が考えられます:

  • 自身の業務における定量的な成果の可視化
  • 上位マネジメントへの直接的なレポーティング
    ルートの確保
  • 他部署との協働における明確な役割分担と成果配分
    の事前取り決め

しかし、これらの対策は本来、健全な組織であれば不要
なものばかりです。

むしろ、このような防衛策が必要となること自体が、
その組織の病理を示す証左とも言えるでしょう。

 結論として、「前年度比20%アップ」のような
数値目標は、それ自体に意味があるわけではありません。

重要なのは、その目標を達成するために組織として
何をすべきか、という具体的な行動計画と、それを
実行する組織の能力です。

 また、目標未達の際の責任の所在を明確にする
ことも重要です。

特に経営層は、目標設定者としての責任を自覚し、
必要な施策の実施を怠った場合は、それを正直に
認める勇気を持つべきでしょう。

 さらに、組織内の寄生的存在を排除し、真の
実力主義を確立することも必要です。

これは、単なる数値目標の達成以上に重要な経営課題
と言えるかもしれません。

このような課題に真摯に向き合わない限り、
どんなに野心的な数値目標を掲げても、
それは単なる「絵に描いた餅」に終わって
しまうでしょう。

真の組織改革は、こうした現実を直視することから
始まるのではないでしょうか。

■よりライトな記事はこちら↓

「数値目標」という呪縛-なぜ組織は空虚な目標に振り回されるのか-

数値目標を「機能」させるための具体的アプローチ

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