組織を蝕む「やればできる」病-現場崩壊を招く根拠なき指示の弊害-

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やればできる
不可能なことなどない
前向きに取り組め

こうした根性論とも精神論とも付かないおまじないの言葉を、どれだけ多くの人が経営層や管理職から投げかけられてきた事でしょうか。

必要なことは何でも実現できる
どこかで誰かは実現している、だからうちでもできる」

という無根拠な妄想に取りつかれた経営層、管理職層、そして顧客層の非現実的な要求と稚拙な指示の数々は、組織の至る所で失望と失笑、そして深い諦めを生み出しています。

目次

能力の4象限

仕事の依頼を本質的に理解するために、まず「能力の4象限」という観点から考察してみましょう。全ての業務は以下の4つに分類することができます:

  • 1.自分にもできて、他人もできる領域
  • 2.自分にはできないが、他人にはできる領域
  • 3.自分にはできるが、他人にはできない領域
  • 4.自分にはできないが、他人もできない領域

本来、仕事の依頼とは「2」の領域、つまり「自分にはできないが、他人にはできる」業務について行われるべきものです。

しかし、現実の組織では「4」の領域、すなわち誰にもできない業務が、安易に部下に押し付けられているのです。

経営層と管理職層の課題

経営層の多くは、市場や株主からのプレッシャーを直接的に受け、それを組織内に転嫁する形で無理難題を生み出しています。

一方、管理職層は経営層からの要求を適切にフィルタリングする能力を欠いたまま、さらに部下に押し付けているのが現状です。

このような歪んだ構造が、以下のような問題を引き起こしています:

  • 誰にもできない課題を「やればできる」という根性論で押し付ける
  • 実現可能性の検証を怠ったまま、権力を振りかざして承諾を強要する
  • 失敗した際の責任を、実行者側に一方的に転嫁する

特に深刻なのは、このような不適切な仕事の押し付けを行う経営層・管理職層の多くが、自身の判断ミスやマネジメント能力の欠如を省みる姿勢を持ち合わせていない事です。

こういった人々は時として「部下の育成」や「チャレンジングな目標設定」を理由に挙げますが、これは明らかな詭弁と言わざるを得ません。

ビジネスとは本来、確実な成果を約束できる領域で勝負するべきものだからです。

(作者はチャレンジングな目標設定自体を否定しているわけではありません)

経営層には、組織全体の能力を正確に把握し、実現可能な経営計画を立案する責任があります。

同時に、管理職層には、経営層の要求を現場の実態に即して適切に解釈し、実行可能な形に落とし込む能力が求められます。

しかし、現実にはどちらも機能していないケースが散見されます。

従業員の課題

こうした状況下で働く従業員たちは、常に過度なストレスにさらされています。彼らは自身の能力限界を明確にし、それを証明できる準備をしておく必要があります。

しかし、それすら通用しない現実も確実に存在し、これに直面した多くの人々が以下のような防衛的な対応を強いられています:

  • 責任転嫁に備えた理論武装
  • 無理難題を回避するための処世術の習得
  • 組織内での立ち回りのための過度なエネルギーの浪費

このような組織の歪みは、結果として企業全体の競争力低下を招きかねません。真に必要なのは、経営層から現場に至るまでの意識改革と、健全な仕事の依頼・実行の仕組みづくりです。

具体的には、実現可能性の適切な評価明確な責任分担、そして失敗を組織の学びとして活かせる文化の醸成が必要です。

もう一つ深刻な問題として指摘したいのは、このような理不尽な状況が「当たり前」として受け入れられつつある組織文化です。

これは単なる生産性の問題を超えて、働く人々の尊厳や職業人としての誇りを脅かすものとなっています。

経営層と管理職層への具体的な提言

経営層には、以下のような具体的な改革と能力が求められます:

  • 組織の実態に即した現実的な経営計画の策定
  • 管理職層の育成と権限委譲の適正化
  • 失敗を許容し、学習する組織文化の醸成

同時に管理職層には:

  • 経営層と現場の適切な橋渡し役としての機能
  • 部下の能力を正確に把握する努力
  • 無理難題をそのまま押し付けない勇気

これらが必要不可欠です。

結論

結論として、現代の企業組織に求められているのは、以下の認識の共有です:

仕事の依頼とは、相互の能力と限界を理解した上で行われるべき、建設的なコミュニケーション行為である。

それは決して、権力や感情に基づく一方的な無理難題の押し付けであってはならない

この当たり前の事実が軽視される現状は、早急な改善が必要です。そのためには、経営層・管理職層の意識改革はもちろんのこと、組織全体での対話と、より健全な仕事の進め方についての真摯な検討が不可欠です。

私たちは今、働き方改革が叫ばれる時代に生きています。しかし、表面的な制度改革だけでなく、このような組織の根本的な病理に向き合わなければ、真の改革は実現しないでしょう。

一人一人の働く人間の尊厳を守り、かつ組織としての生産性も高められる、そんな健全な職場づくりへの取り組みが、今まさに求められています。

決して容易な課題ではありませんが、避けて通ることのできない重要な経営課題として、真摯に取り組むべき時が来ていると作者は考えます。

何より重要なのは、この問題を個人の能力や努力の問題として矮小化せず組織全体の構造的な課題として捉え解決に向けて動き出すことです。その第一歩として、現状の問題を認識し、経営層から現場に至るまでの建設的な対話を始めることから、私たちは行動を起こすべきではないでしょうか。
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