「権力」という安楽椅子-大企業権力層を蝕む「分かりやすさ」依存症-

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近年、いわゆる大企業病の深刻な例として、経営幹部の思考力低下による組織全体への悪影響があると感じています。

作者も何度もこれを実感したことがあり、また会社の外から聞こえ来る声からも、この問題は個人で解決できる範疇を超えて、組織構造そのものに根差した課題となっている事が窺えます。


幹部を取り巻く「理解力低下の生態系」

大企業の幹部の周囲には、複数の取り巻きが存在します。

彼らの多くは幹部の意向に無条件に従う「イエスマン」として機能し、実質的な問題解決は他者に丸投げする構造が定着しています。

この構造の中で、以下のような悪循環が生まれます:

  • 幹部は専門的な内容を理解しないまま「わかりやすく説明しろ」という要求を繰り返す
  • 実務者は幹部の理解を得るために過度な単純化や説明の繰り返しを強いられる
  • この過程で、本来の課題の本質が失われ、実効性のない対応に終始する

最も憂慮すべき点は、この循環の仕組みが幹部の思考力をさらに低下させる要因となっていることです。他者からの過度な配慮と簡略化された説明によって、幹部は自身の理解力の低下に気付かないまま、むしろ自身の能力を過大評価する傾向にあります。


組織の機能不全を引き起こす負のスパイラル

この状況は、より深刻な組織的な問題へと発展します。

理解が不十分なまま意思決定を行う幹部は、現場の実態とかけ離れた施策を打ち出し、それが失敗に終わると更なる「わかりやすい説明」を要求する、という悪循環に陥ります。

  • 実効性がないがゆえに望んだ結果が得られない
  • その理由と対策を「わかりやすく」説明するよう要求する

このプロセスの中で、以下のような組織の歪みが生じています:

  • 本質的な問題解決よりも、幹部への説明のための時間と労力が優先される
  • 実務者の専門性や創造性が活かされず、組織の競争力が低下する
  • 幹部と現場の間の認識のギャップが拡大し、効果的なコミュニケーションが困難になる
  • 答えがわかりやすく提示され、自ら考えない事によって幹部の思考力が更に劣化する

結果として「何も分かっていない」幹部に対して現場は目を冷ややかにし、諦観とともに言われたことだけを実施する体制が出来上がります。


負の共犯関係が生まれる構造的要因

この状況で特に注目すべきは、幹部とイエスマンの間に形成される「負の共犯関係」です。

この関係が維持される背景には、複数の構造的要因が存在します。

まず、幹部側の要因として、権力維持への執着があります。

自身の能力低下を認めることは、その地位の正当性を揺るがすことになりかねません。そのため、都合の良い情報だけを受け入れ、批判的な意見を排除する傾向が強まります。

一方、イエスマン側には、出世や待遇向上への期待があります。

幹部に迎合することで、短期的な利益を得られる可能性が高まるためです。

また、組織内での「和」を重視する日本的な企業文化も、この関係を強化する要因となっています。

更に両者にとって、この関係は「心理的安全性」を提供します。

幹部は自身の能力への不安を覆い隠せ、イエスマンは困難な判断や責任から逃れることができます。

こうした相互依存的な関係は、組織の中で徐々に深まり、最終的には両者とも抜け出せない状況に陥ってしまいます。

このような負の共犯関係は、組織全体の健全性を損なうだけでなく、イノベーションや創造的な問題解決を阻害する要因ともなっています。

特に、若手社員や実務者たちの意欲を削ぎ、組織の将来的な成長可能性を著しく低下させる結果となっているのです。


解決への道筋と現実的な対応

この構造的な問題の解決には、先に挙げた負の共犯関係から生まれるメリットを無効化、デメリット化するための、幹部層の意識改革や評価システムの改善が不可欠です。

例えば、過度な簡略化要求やイエスマン的な行動に対するペナルティの導入なども考えられます。しかし、現実にはこれらの施策を実行に移すことは極めて困難です。

なぜなら、この問題の本質は、権力を持つ層の自己認識の欠如にあるからです。

自身の能力の低下を認識できない幹部が、その問題を解決するための施策を導入することは、論理的に矛盾しているとも言えます。

では、この状況下で個人はどのように対応すべきでしょうか。
最も現実的な解決策は、組織への依存度を下げることです。

具体的には:

  • 自身の専門性と市場価値を高め、転職可能な状態を維持する
  • 組織内外のネットワークを構築し、選択肢を増やす
  • 過度な妥協を避け、専門性を活かせる環境を能動的に選択する

具体性にかける部分はありますが、これらの対策が有効でしょう。

また実際に動く際には上記の対策を自身の状況に落としこんだ上で、現実的な実行プランを作成し実施することが必要となります。


結論

今回指摘した、(典型的大企業の)『経営層の理解力低下の生態系』という組織的病理に対して、即効性のある解決策は存在しないかもしれません。

しかし、この問題の存在を認識し、考察を重ね、個人レベルでの対策を実践していくことで、少なくとも個人のレベルでは、徐々にではあっても改善への道が開かれていくはずです。

この問題に真摯に向き合い、適切な対応を取れる人材が増えていくことで、やがては組織全体の在り方そのものが変わっていく可能性を、作者は信じたいと思います。

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